宮城県美術館で宮城県出身の作家を取り上げるというのはよくある流れ。それにしても佐藤忠良ばっかりじゃねーかお前ん家!と県民は思っていることだろう。しかし佐藤忠良は、誰もが読んだレジェンド児童書「おおきなかぶ」の挿絵を書いていることが発覚した。今回はその原画が展示されるということで、見に行ってきた。
この展示は総じて観覧者側も儲けが出ると言って過言ではない。おとな1200円で、この企画展+常設展+佐藤忠良記念館が見られるのだ。これはすごい。全部ちゃんと見ようとして1日がかりになった。企画展は写真撮影はNGだが、模写はOK。クロッキー帳と鉛筆で気になった作品を模写してきた。
佐藤忠良は例えるなら支倉焼みたいなもん
佐藤忠良の作品が刺さるのは、首都圏へ仕事に出て仙台に里帰りした人だと思う。私が実際そうだ。素朴な人物の切り取りが多いので、時間の流れのゆっくりした感じやローカル感があるのだと思う。つまり、美術界の支倉焼みたいなもんである。第一線ではない知名度と手堅い味がそんなイメージ。街なかの人をクロッキーしている身としては作風に親近感があり、見に来るのが楽しみだった。
佐藤忠良の芸術は、はじめて日本人が日本人を描いたと評される。美男美女ではない人間を取り上げ、飾らない姿を生き生きと描いている。また、佐藤忠良が影響を受けた画家の素描なども少し展示されている。それにしても、佐藤忠良の視点で名画を切り取るというのが面白い。
ブロンズ像をたどり、「おおきなかぶ」へ
作品は素描をベースにしているブロンズ像が多い。つまり鉛筆で描いたタッチそのままの銅像という感じだ。精密でツルツルな作品を見慣れている人にとってはすごくざっくりしていると感じるだろう。なのに生々しくて、夜に動き出しそうだ。作品の裏に回り込んで背面なども確認できるのが最高である。
ポストカードなどにもなっている有名な作品を模写した。この作品は、全体的に無重力感を出し、彫刻でのモビールのようなものに挑戦したものらしい。作品の背景を知ることができると、どうしてこれがメイン扱いなのかの裏付けを知れるのでおもしろい。
お楽しみの「おおきなかぶ」絵本原画は最後に展示。焦らすわね。単純な話を背景や小道具を入れずに描くという厳しい条件にも関わらず名作が誕生した。助っ人が来るまでおじいさん達がくたびれて休んでるところは佐藤忠良のオリジナルだという。体重のかかり方や、かぶの美味しそうなところなども原画から感じ取れる。自然と子供の時から素晴らしいものに触れてきたのだなあと感じる。なんと展覧会の時期によって本の前半か後半どちらかの原画が展示されている。焦らすわね。
これだけでは済まされない
だいぶ満足の企画展が終わってもまだ美術館は帰してくれない。常設展もすごいのだ。私が行ったときは雪をテーマにした作品や、最近美術館に仲間入りした作品を展示してある。ところどころにあるワンポイント解説が丁寧で、体力が尽きていなければこちらももっと丁寧に見て模写などしたかったところ。カンディンスキーなどが展示されている。
とどめに佐藤忠良記念館。ブロンズ像の作り方がビデオで解説されていてとても勉強になった。石膏だって大変なのにブロンズは二度・三度手間ってレベルではない。大きい型の中に小さい型があって、その間に金属を流し込む(つまりブロンズ像の中は空洞)のだが、原型・大きい型・小さい型と作るのは大変。だいたい佐藤忠良の作品は等身大以上のものも多数あるし。あと、同じ原型からブロンズ像が複数作られるので仕上がりの違う展示を見ることもできる。それにしても、銅像が立つってすごいことなんだなあと感じた。
作品を見て模写したりして、特に素描に注目するという目的を持って臨んだので、すごく充実すると同時に疲れた。1日見てまわるとふらふらだ。美術館で1日過ごせるほどの濃い展示ということで、経験値的な意味でも大儲けである。会期は2023年2月4日(土曜日)~3月26日(日曜日)なのでぜひ行ってみてね。ごきげんよう~