おんどりはこの作品で不穏さを象徴するアイコンとして時々出てくるのよ。 冒頭、おんどりが入ったカゴがトラックの荷台に積んである。このカメラワークだけでこれは良作ではないかと予感したわ。黒の色彩もいい。モルドバが舞台ということで、いつものアメリカ映画とかとはちがった趣がある。
共同購入した物件を売って果樹園をやりたいっていう主人公の会話から始まるのよ。そしてこの村のなんともいえない「住民にとっては居心地いいんでしょうね感」と退廃的な感じが演出される。主人公は警官で、新人が配属される。
警察署にはシーツが盗まれたとかどうでもいい事件が来るんだけど、そのあと殺人事件が起こるのよね。のらりくらり過ごしてきたやるきのない公務員かと思われていた主人公が新人にテキパキ指示出してて結構頼もしいのよ。こういう意外な情報の出し方がこの映画は優れている。
40分経っても事件が進まないんだけど、ずっと見ちゃうのよ。やはり演出が優れているとはこういうことね。村長のおかげで村が暮らしやすいとか、村がどんなところかもわかってくる。
そんな中、主人公の自宅に村長と神父が訪れて、実は村長が犯人だから一緒に隠蔽してくれないかって話になるのよ。果樹園を安く売ってくれる約束までしちゃうのよね。個人的ハイライトはこの後の主人公。夢がかなったが犯罪に加担しなければならない男の反応が生々しく描かれてるわ。テレビの音がうるさい薄暗い部屋で立って酒を飲むのよ。喋らないで演出で感情が表現できてるわね。
そんなわけで主人公は熱心な新人の目をそらさなければいけなくなる。殺された人の奥さんのところに行ったりするが、食べかけの皿が扉の向こうに見えたりと、生活感ある小道具の配置もナチュラルで、監督のやる気を感じるわ。ここで、その家の子供を寝かしつける場面があり、主人公は子供にも優しいという意外な一面が明らかになる。こういう情報の出し方がうまいのよほんとに。
熱心に聞き込みとかしちゃう新人から「話があります」と言われる。外でタバコ吸ってたんだけど中で話をしなければならない。その時の一連の動作も素晴らしかったわ。タバコを吸いながら考えて、さらにコーヒーを飲む。ここが本当に悩んでいる人間の間合いなのよ。何言うか考えてるのねって伝わる。完璧だわ。
主人公は実は結構口も回ることも発覚する。この事件の捜査中止は自分の意向ではなく上のさらに上だというところから話して丸め込む。ところが、今度はこの部下が殺されちゃうのよ。せっかく止めたのに。また村長がやったのかって問い詰める。その口ぶりからは本当に部下を守ろうとしていたことが伝わる。そのためにあれだけ口を回していたのね。こういう後出しがこの映画は素晴らしい、何度でも言うわ。
最終的に果樹園の権利書を村長からもらうが、このシーンが地味なのもいい。もはや嬉しい出来事ではなくなっている、悲劇の引き金なんだわね。現実ってこんなもんですよ感が出ててとにかくリアリティだわね。さらに、殺された人の妻も村を出ていく羽目になり(どうやら追い出された)、主人公は昇進。シワひとつない、肩の階級印が1つ増えた制服を着る。
そんで話どうなるかなと思ったら、銃を持って村長グループのいる河原へ行ったのよ。見過ごしておけなかったのね。でも、ここで盛り上がるのではなくむしろ背景音は無音、ただ銃撃戦をして一人ずつ怪我を負って殺されていく。戦いの最終決着は河原に遊びに来た第三者が銃声を聞くかたちで表現されるのも文句なし。その場にいた全員が死亡して、おんどりが映ってENDよ。
演出のレベルが高くて私好みの映画だったわね。とにかくリアルで淡々として進む。情もあるんだけど映画の演出が無情だから映画全体が淡々としているのが素晴らしい。人によっては展開に抑揚がないと感じるかもしれないけど、この演出レベルなら十分我慢できるわ。これは良作(★★★☆)ね。久々の無情系映画だったわね。ごきげんよう~
↓これ好きな人が好きそうな無情映画(傑作判定)
